眠れぬ夜に開く本
心配ごとを抱えたり
自分に疲れてどうしようもなくなったり
そわそわしてなかなか眠れない時に
開く本があります
特にページを決めずに指が差すところをめくって読み始めると面白いことにどのページに当たっても、その時抱えた数々の心配、疲労、そわそわから解き放ち静かで落ち着いた時間をもたらしてくれる本
伝記
分かりやすくシンプルでいながら起伏に富む…
自分の抱えていることが小さく何でもないことのように思え、仕舞いにはそれすら忘れてしまうほどその内容に引き込まれてしまうのです
その本は
「マティス:知られざる生涯」
2023年
20年振りの大回顧展が国立西洋美術館で開催されたことをご存知の方も多いのではないでしょうか?
生命のきらめき、色彩の踊るような戯れ、絵画から生きる喜びや創造への情熱が波動のように会場に散らばり、多くの観客が作品に魅せられ胸打たれたのでした
これだけの量を一度に観て、今まで抱いていたマティス像は完全に覆されたのでした
この魅力を忘れまいと図録と伝記を購入したのです
自伝は全510ページ、1ページ2段組というボリューム
さぞかし読み応えがあるだろうと読み始ると、翻訳の流れるような文章も手伝って最初から最後まで飽きずにたのしく読み進められたのでした
マティスを知るには、マティス本人だけではなく家族間の人間関係、それぞれの性格、健康状態に関する証言や手紙の内容、友人知人関係者からの複数の証言、秘書だけが知っているプライベートな姿やその生活の記録、世論や時代背景、時代の特徴など、一次情報以外の情報がたくさん盛り込まれています
加えて、当時の美術界からの誹謗中傷、世間の評価や非難、同業者からの不当な言いがかりや悪態、画家仲間との距離や関係も余すところなく伝えています
また生涯のライバル(ずっと比較されてきた)ピカソとのエピソードやお互いの言葉少ないながらの貴重な証言など…お互いをリスペクトしあう関係になるまでも細かく描いています
いわゆる成功譚を読まされるのではなく、彼のさまざまな側面をあらゆる人たちの証言によって照らし出すと…
あるひとりの不器用な人間が浮かび上がるのです
(彼自身も自分は不器用だったと回想しています)
困難があったとき、大事にしている信念を常に振り返り、仕事に向かう姿は勇気づけられる箇所です
マティスの作品からは想像できない暗くて孤独な魂はフランス北部出身に起因するという生まれもった性や、共同体であった家族が時間の流れで確執を生み無理解に変化し孤立せざるを得なくなったり、決して丈夫ではない身体の生涯の心配がありながら、毎日モデルを前にやる気スイッチを入れ、絵を描くそのためにする犠牲は厭わない姿がそこにあります
お金の使い方も大胆でケチなところはなく、然るべきところにたっぷりとかけ贅沢で美しい花や鳥、絨毯や布に費やし心地よい空間を作る…それらはすべて絵を描くために他ならないのだった…
マティスが次第に絵を描くこと以外の日常生活…家族の絆や世間を拒絶していく様子に長女が放つ言葉ほど、身に染み入るものはありません
それは芸術家であろうとなかろうと、その当時の父親・男性の職業的責任や価値感の違いを露呈していて、現代にも当てはまる部分もあり、娘の感情に共感する方は少なくないのではないでしょうか…
マティス作品から受ける心地よいリズムや簡潔でシンプルな線やデザインがもたらす軽快さ、モダンさの裏には激しく厳しい自己管理と勤勉さ禁欲と苦脳があったのでした
それは芸術家として、家族の一員として、性別的に男性としてでもあるし…ひとりの人間の多面的な面それぞれへの配慮と喜び、苦悩を一手に引き受けるには強靭な信念に支えらていたのです
しかしその強靭な信念はそのエネルギーの強さゆえに他を巻き込み益々頑固に、孤立を深めていくのでした
この伝記はこの芸術家を必要以上に崇高な存在に仕立てたり、高らかに賞賛するということはありません
アンリ・マティスというひとりの人間の客観的な記録を詳らかにしているだけです
マティスを襲う不運や事故に対して、何度も何度も絵で乗り越えていく姿に惹き込まれるのです
どんな職業であっても自分の「仕事」への熱意と情熱が生きることそのものへダイレクトにアプローチしそれによって自他共に生かされるのです
それは受動態ではなく、能動的に「生きる」ことを欲しコツコツと積み重ねる毎日そのものが人生であるというような謙虚さと真摯な姿勢があります
どこから読み始めても面白く、いつも初めて読むような新鮮な驚き、次のページを読み進めたくなる好奇心を刺激するのです
眠れぬ夜にどんな感情も癒し寛ぐ安楽椅子のようなおすすめの一冊です
ヒラリー・スパーリング著( Hilary Spurlin).野中邦子(翻訳).マティス:知られざる生涯. 白水社, 2012, 510p
「眠れぬ夜に読む本」を読んでくれてありがとうございます
この本を読み始めると、なぜか心が落ち着く…マティスの受けた想像できないくらいの誹謗中傷、非難や悪態を読むと「マティスは闘った、だからわたしも大丈夫」と思えるのだった。
マティス自身もどうしようもない無理解に出会ったとき一枚のセザンヌの水浴図を見て「セザンヌは正しかった、だから自分も正しい」というように自分を鼓舞し勇気付けていたのだ
セザンヌの絵画はマティスの精神の支柱でありお守りであり、到達するべき高みへの階段のようなものだった…絵画は精神の中心にありどんなことがあっても果敢に挑戦し続けること、その模範になっていたのではないだろうか
絵を描くことに生涯を捧げたマティスの伝記もまた、彼の絵画と同じように誰かにとっての安楽椅子のような役割を担うのだった
夏の展覧会のお知らせです
【第8回菜々燦会】
■会期:8月27日(火)~9月1日(日)
■開催時間: AM10:00~PM5:00(初日PM13:00~、最終日PM4:00)
■場所 :春日部市中央公民館 2階ギャラリー
>住所: 344-0061 春日部市春日部6918-1
>電話 :048-752-3080
>交通 :東武野田線(アーバンパークライン) 八木崎駅 徒歩2分
下記の日時で会場で受け付けをしています
♦8月27日(火)~13:00まで
♦8月28日(水)10:00~午前中まで
♦8月29日(木)10:00~午前中まで
♦8月30日(金)10:00~13:30
♦8月31日(土)10:00~17:00 終日
♦9月1 日 (日)10:00~17:00 終日
【The Eighth NANASAN-kai】
■Dates : August 27 (Tuesday) - September 1 (Sunday)
■Hours: 10:00 AM - 5:00 PM (from 13:00 PM on the first day, 4:00 PM on the last day)
■Place: Kasukabe City Central Public Hall 2F Gallery
>Address: 6918-1 Kasukabe, Kasukabe City, 344-0061, Japan
>Telephone: 048-752-3080
>Transportation: Tobu Noda Line (Urban Park Line) Yagisaki Station, 2 min. walk
■Exhibition venue ULR: https://www.city.kasukabe.lg.jp/soshikikarasagasu/chuokominkan/gyomuannai/2/3/1/5622.html
個展開催のお知らせ
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■10月11日~10月20日
MegumiKaraswa個展
M-gallery 川口
住所:〒332-0016 埼玉県川口市幸町3丁目1−15-G
電話:048-254-8021
こちらも併せてご来場をお待ちしています☺
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