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日記を読む

更新日:6 日前

日記の言葉


読書を進める中で好きなジャンルがある

作家が書くメインの著作とは別の日記である

日記を読むと作家の人となりを感じやすい

内省的かと思いきや意外とドライな文体から思索の一片を知る


日本には古くから日記文学があり有名なものが多い

日本最古の日記文学は平安時代前期の九三五年(承平五年)ごろ紀貫之が書いた土佐日記である

女性に仮託して書いたもので、和歌の名手だった紀貫之が和歌以外の文章をひらがなを使って書くために女性のふりをしたと考えられている


わたしが読むものは日記文学ではなく、そのまんま日記である(ことが多い)

メインの著作以外に書いたもので、基本的に出版を目的としておらず内省的で個人的な領域の文章となっている

他者の日記を読むのは覗き見のようで居心地の悪さを感じることがあったが、

読書好きの知人から日記は面白いよ、と教えてもらい試しに読んでみたところ、想像していたものとちがっていた

ドライな文体とどこか覚めた視点を持って書かれていることが多く、読みやすい

共有できる感情があったし共感できる日常があった

と並行してまだ知らない感情や感覚が描かれていたし、やっぱり雲の上の人だなと感じることもあった

作家が生きた時代の社会や交友関係や人間関係、移動距離やまなざしが生きた言葉を紡いでいる

日記に派生して書簡集も以上の理由からすきなジャンルである

ちなみに大江健三郎は死後も日記の公開をしないことを明言し実行した(とどこかで読んだ)



ロラン・バルト『喪の日記』


この本は一九七七年十月二十五日に最愛の母親が亡くなった翌日から描かれた日記である

二年近くの間、三百二十枚のカードに記された

これらはバルト自身によって五つのパートに分けられ分類されている

喪の悲しみからエクリチュールによって自らを立て直し新たな作品を書き上げるまでの最も厳しく救いようのない時間を書き留めた記録である

喪に服した著者の内面が描かれている

しんしんと舞い散る粉雪はらせん状に回転しながら空気中を漂い地に着くことなはい

地に辿り着かない軽さを持った雪は行き場なく漂い静止画のように時を跨ぐ


喪失


一言で「喪失」と書いて終わるものではない

単語を分解したら何が出てくるだろうか

すすり泣き、涙の雫、一輪のバラ、こだま

音、色、陰影、香、温度、季節、移動

言葉以上の言葉が心に反映する


『喪の日記』を読みロスト・ペインティングというテーマで絵を描くわたしの洞察や深度の浅はかさを思い知る

どこまで井戸を掘り、どこまで潜って、深く深く降りていけるだろう

含蓄ある言葉、作品にするには、方法論はなし

今日もおつかれさまでした

明日も素晴らしい日になりますように



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