現代アートと原始の土:ミケル・バルセロ展から受け取った「生物の体温」
- Megumi Karasawa
- 1 日前
- 読了時間: 4分

個展が終わり、一段落ついたところで、久しぶりにインプットの時間を取りました。本日、足を運んだのは、スペインを代表する現代アーティスト、ミケル・バルセロ(Miquel Barceló)による陶芸展です。
以前ブログでも取り上げたバルセロですが、今回は東京・表参道の現代アートギャラリーで開催しています。見つけたタイミングですぐに観に行くことができ、その場で受け取った圧倒的なエネルギーに、今も強い印象に満たされています。
ミケル・バルセロについて書いた記事。
スペイン・カタルーニャ美術の系譜から、日本に生まれたことについて想い巡らせる。
1. 縄文と地中海:大地と生命のうごめき
会場は中央を仕切り、二つのスペースに分かれていました。大きな台の上に、用途から逸脱した巨大な壺が7~8点ずつ並んでいます。
入ってすぐに観た印象は、日本の「縄文土器」を思わせる根源的な力強さでした。
しかし、じっくりと対峙していくと、その作品から湧き出るイメージはさらに広がります。
地中海を感じさせる潮風、風そよぐヨーロッパの草原、乾いたアフリカ大陸の昆虫たち...。
それは、大地と国土の圧倒的な大陸のエネルギーをそのまま焼き付けたもののようでした。
奔放に描かれた魚、甲殻類、蛇のような生き物、蝶たちが、まるで神事(しんじ)に使う神器の上でうごめいているかのようです。それらは、生活で使う「必需品」として人間の営みに直結しながらも、現代アートとして強烈な存在感を放っていました。
2. 壺の中の宇宙と、思考からの解放
この陶器の体験で印象的だったのは、その「内側」でした。
大きな壺をそっとのぞき込んだとき、暗い海底に星空が映り込んでいるかのような錯覚を覚えました。それは、バルセロが壺に穴を開けたり、突いたりしたときにできたスキマが、空間に煌めく星空のように見えたからです。
私たちが都市に暮らして人工的な建物に囲まれている環境から、この陶器は私たちを何世代も前に遡らせ、根源的な造形や始原の土へと立ち返らせてくれます。
土と火、そして「手」を汚して作り上げた造形物。
どこまでも人間的で、どこまでも手垢のついた作品です。
どこからが自然の土の作用で、どこからが人間の意図が反映されているのか。
陶器をずっと見ていても飽きないという体験は初めてで、その清々しい感覚に、深く感動しました。
こうした大きくて大胆な身体表現を伴う作品を観ると、頭でっかちに考えてしまうことから解き放たれ、「息を吐き、吸い、生きている」という生温かい体温を、愛おしく感じたのです。この感覚こそが、アートに触れるたときの醍醐味だと改めて共感しました。
3. 日本の「信楽焼き」との共振
この陶芸作品には、もう一つの重要な側面があります。
この作品は、2023年に信楽の陶芸家・古谷和也氏との共同作業から生まれたものです。
あらゆる地域で陶芸を学んできたバルセロが、日本の焼き物に触れ、特に信楽焼きに興味を示したとのこと。展覧会のために古谷氏と一緒に制作し、40点以上の作品が生まれたそうです。
登り窯という窯で1,300度を超える焼成が4日間続き、昼夜を問わず古谷氏が見守りつつ薪をくべ続けたという背景を知ると、この陶器が持つ「生命力」と、人間の手による「情熱」の重みがより深く伝わってきます。
久しぶりの鑑賞から得たこのエネルギーを、私の次の制作にも繋げていきたいと思います。作品鑑賞は、創作活動を続ける上で必須の栄養源だと再認識しました。
この展覧会(ミケル・バルセロ:信楽焼き)は、11月9日までファーガス・マカフリー東京で開催中です。ぜひ、あの土と火のエネルギーを体感してみてください。
参考:Fergus McCaffrey『ミケル・バルセロ:信楽焼き』プレス・リリース
【ミケル・バルセロ:信楽焼】
ファーガス・マカフリー東京
2025年9月9日ー11月9日
入場無料
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