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旅の記憶

更新日:2月3日

リスボン


某日、朝起きた時から違和感がある、身体が怠くて重く少しの頭痛

急激に下がった気温と部屋の寒さも影響しているのだろうか、心にうっすらと埃が溜まったような得体の知れないモヤモヤと下降気味のメンタルを抱えながらできることはできるだけしようと日課を開始した

ドローイングにブログと、読書

読書はゆっくりと、ドローイングはリカバリー、ブログで整える

2月のスタートは体調とメンタルの言いようのない不安と不調から始まった

寒さが増して灰色の空が一日続き家の中にこもる

昨日まで天気予報は雪マークが出ていたのだが持ちこたえ、代わりに小雨が降った

こんなときに読む本は不調を忘れるような、トリップした気分になるエッセイが丁度いい

この場所から遠く離れた海外に行った気分になる本

去年の9月に邦訳されたイム・キョンソン「リスボン日和ー十歳の娘と十歳だった私が歩くやさしいまち」を紹介したい

ちなみに千葉雅也氏の「アメリカ紀行」もおすすめ


去年わたしが初めて旅した国はポルトガルのリスボンだった

四月に8泊9日の旅をした

イム・キョンソン氏は一月に11泊12日の旅をし、その記録をまとめたエッセイが「リスボン日和~」だ

著者が十歳のとき一年間両親と共にリスボンに住んでいたという

著者は韓国人で、外交官である父の赴任先のさまざまな国で過ごした

著者の父親がポルトガル語圏の外交官として必要な学力を身に付けるためにリスボン大学に留学したのだ

その両親が二人とも亡くなって彼らの思い出の土地を旅することにした

十歳になった自分の娘と一緒に十歳だったころの自分が住んでいた街に二人だけで旅をする

かつての記憶を辿りながら娘に自分を重ね、リスボンの街に生き生きとした両親を重ね、両親の思い出をふいに思い出し感傷的になり涙をこぼして娘に見られないようにしたことも書かれていた

この辺りの感覚は強烈に胸に来た、わたしも同じようなことをしたことがあるからだ


娘を通して自分を見つめ、人生で一番幸せだったであろう両親の姿を見出し、現地の人々のちょっとしたやさしさに触れ書き留める、シーズンオフの海辺で入ったレストランで緊張感を解いた日常の姿を好ましくおもったり、当時の両親を知るおじさを数十年振りに尋ねて食事をしたり、両親が通っていた大学を見学する

著者は母からわたし、わたしから娘へと手渡された命をリスボンの街を経由し繋いでいくのだ

娘からその娘へ、受け継がれる命はまたリスボンの街を経由するだろう

どこの国の住人でも一度はリスボンを経由する、そんなことを思った


リスボンの街に行ったことがあれば本の中に描かれた地名や名所や海岸の名前と波の高さや波の穏やかさを知っているだろう

宿泊先のホテルの名前やレストラン、大きな通りや公園や広場の名前、スーパーやセレクトショップやお土産屋さんある伝統工芸品のいくつかの特徴、老舗の本屋さん、新旧融合した市場や樹齢百年を超えるオリーブの木、サラマーゴ博物館の斬新な建物やフェルナンド・ペソアの行きつけのカフェをありありと思い出すだろう

6月に咲くという夢のように美しいジャカランダの紫色や、青いタイル、ブーゲンビリア(著者のお気に入りのお花)や夕暮れの色、暗くなった頃に灯る街頭や、石畳やケーブルカー

ジャガイモとケールのスープ、干しだらの料理や添えられたジャガイモやブロッコリー

塩とオリーブ油のシンプルな味付け、デザートのナタはどこで食べても美味しいと懐かしさを感じるだろう


一行読む度にわたしの知っているリスボンの空の色と街の色、多様な人種と美しい横顔、透明でまっすぐな大きな目と長くて濃いまつ毛の人々を思い出さずにいられない

本の中に充満する懐かしさと温かなやさしさとゆるやかな時の流れはアジアにはない

ここにしかないものを大人になって再び享受する著者の旅

わたしはこういう本を書いてみたい。とおもった

旅は一瞬のうちに過ぎるけれど本に残せば永遠になる

本は空間なのでいつでもそこに入って体験できる

この本を読めてただただ嬉しい

翻訳し出版してくれた方々に感謝している

不調を感じたら処方箋のように本を開くのだ


♦参考文献

イム・キョンソン著 熊木勉訳『リスボン日和ー十歳の娘と十歳だった私が歩くやさしいまち』日之出出版,2024

・千葉雅也『アメリカ紀行』文藝春秋,2019


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