空間構成:さらに踏み込んで。なぜ作品は床に置かれたのか?
- Megumi Karasawa
- 8月15日
- 読了時間: 3分

前回のブログで、個展に向けた「空間構成(キュレーション)」の構想についてお話ししました。YouTubeでご覧いただいたように、前回の個展では、作品を床に立てかけることで、アトリエに招いたような演出を試みました。
今日は、その空間構成に込めた、より深い「意図」についてお話ししたいと思います。
そうすることで、今年はどんな構成にするか、考えてみたいのです。
アトリエという空間にすること
なぜ、私は「アトリエ」という空間を、観客に体験してもらいたかったのでしょうか。
それは、作品の完成形だけでなく、創作のプロセスや、その背後にある葛藤も含めて「作品」だと捉えているからです。制作の場であるアトリエは、私が日々、自己と向き合い、試行錯誤を繰り返す場所です。そこを再現することで、鑑賞者は作品の「完成」だけでなく、それに至るまでの道のりや、アーティストの内在的衝動を追体験できるのではないかと考えました。
これは、美術史において、アトリエを「秘密の場所」として閉鎖的に扱った時代から、制作プロセスそのものを作品とするプロセスアートの動向へと接続する試みでもあります。
現代アートの主流であるホワイトキューブ(作品を中立的に見せる空間)の概念を揺るがし、作家の個人的な空間をギャラリーに持ち込むことで、作品に新たな文脈を与えようとしたのです。
ギャラリーのガラス窓から外に向けて作品を配置したのは、「見せる側(アーティスト)」と「見る側(観客)」という関係を問い直す行為でもありました。作品が内側から外へと発信されることで、鑑賞者のまなざしは、ただ受け身なものではなく、作品との能動的な対話へと変わっていくのです。
「距離」と「配置」がもたらす「差異」
今回の個展のテーマである「まなざしと差異」の出発点は、ある展覧会を観に行ったことでした。その作品から他者と自己、自己と他者のまなざしについて、特に興味を持ったのです。それを個展では作品と空間構成によって再考したいと考えています。
作品間の物理的な「距離」は、鑑賞者の心理的な「まなざし」に大きな影響を与えます。例えば、密接に配置された作品群は、全体として一つの物語を語りかける一方で、余白を大きく取った作品は、その個としての存在感を際立たせ、鑑賞者の内面と深く向き合う機会を与えます。
また鑑賞者が作品を「見る」という行為が、同時に作品から「見られている」という感覚や、作品との間に生まれる距離感そのものに意味を持たせたいのです。
また、「配置」も重要です。過去の作品に加筆を施したキャンバスと、新作のドローイングをどう配置するか。この配置の仕方で、鑑賞者が過去から現在へと続く時間の流れを感じられるか、あるいは、過去と現在が共存する複雑な世界観を体験できるかが変わってきます。
これは、デリダが論じた「差延(différance)」のように、意味が常にずれ、時間的に遅延することで、無限に生成され続けるプロセスを空間的に表現しようとする試みです。
制作とキュレーション
作品を制作する過程で生まれた思考や感情が、どのように空間構成のアイデアに結びつくのか。私にとって、この二つの作業を密に、同時に進めています。
物理的な作品と、目には見えない空間の概念という、二つの異なるレイヤーを統合することで、個展という一つの「全体像」を完成させようとしています。この個展が、私の創作哲学そのものを体現する場となるよう、これからも作品と空間の両方と真摯に向き合っています。
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