『ロスト・ペインティング』探求録:第三章 存在の再構築とあなたへのメッセージ
- Megumi Karasawa
- 7月13日
- 読了時間: 3分

7月15日(火)からグループ展『第9回 菜々燦会展』が始まります。この連載も、今回が三回目になりました。
これまで第一章で「白」という色に込めた問いを、第二章では「消去」という制作プロセスが持つ意味、そしてそれが社会のバイアスとどう繋がるのかをお話ししました。今回は、その「消去」の先に現れる「存在の再構築」というテーマ、そして私の作品が皆さんにもたらしたいことについて、具体例を交えながらお伝えします。
「消去」から「再構築」へ:新しい存在の兆し
私の制作プロセスにおいて、白による「消去」は単なる破壊で終わりません。キャンバスに描いたものを白く塗り潰し、背景と混沌とするように、形を変えて再び強く浮かび上がってくる瞬間こそが、「存在の再構築」です。
例えば、新作シリーズ『ロスト・ペインティング』の中の《who am i? #1》という作品では、曖昧な記憶が透けていくように身体も色褪せる様子を描きました。これは、自己が曖昧になり、薄れていく記憶の奥でやがて喪失するのではないかという不安を感じさせます。
あるいは、《who am i? #4》では、顔のない人体が、白と青の混沌の中で辛うじて認識できる身体を描きました。そこには個別の感情は存在せず、普遍的な人間の姿、あるいは内面の葛藤が、新たな調和の中で分裂する過程が示唆されています。
消し去る手前で、余計な情報と残すべきものが攪拌されます。本質的な部分、あるいはこれまで見えなかった関係性や感情の「核」が、静かに、しかし確かに立ち上がってくる予感を見出すのです。
展覧会で伝えたいメッセージ:揺らぎの中に自由を
今回のグループ展、そして私の『ロスト・ペインティング』シリーズを通して、私が最も皆さんにお伝えしたいのは、「揺らぎと混沌の中にこそ、自分と向き合う自由がある」ということです。
私たちは皆、日々さまざまな情報や価値観に囲まれ、時に自身の感情や記憶さえも曖昧に感じます。私の作品で「消去」したものは何か、「顔なき身体」は何を示しているのかを、ご自身の内面に照らし合わせてご覧頂けると嬉しいです。
会場に足をお運びいただいた際、作品の「揺らぎ」の中に、ご自身の記憶や感情を重ね合わせてみてください。作品が持つ曖昧さや多義性が、皆さんの内側で新たな対話を生み出し、固定された枠組みから解放されるきっかけとなることを願っています。美しさの定義、感情のあり方、そして「私とは何か」という問い。それらが決して一つではなく、常に変化し、再構築されうるものであることを感じていただけたら幸いです。
次回予告と、会場でのお願い
さて、連載も残すところあと一回となりました。最終章となる次回は、これまでの内容を総括し、私の作品が最終的に目指すものを、改めて皆さんにお伝えしたいと思います。どうぞご期待ください。
展覧会は7月15日(火)から20日(日)まで、柏壁市民センター2Fギャラリーで開催されます。私は全日在廊予定ですので、ぜひお越しいただき、作品を直にご覧頂けると幸いです。
どうぞ宜しくお願いします。
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