作業進捗8:音のないアトリエ
- Megumi Karasawa
- 8月27日
- 読了時間: 2分

いつもブログを読んでくださり、ありがとうございます。
個展に向けて、毎日アトリエで制作に励んでいます。
時々、「制作中はどんな音楽を聴いているんですか?」と聞かれることがあります。
実は、私は制作中に音楽を聴きません。
今日は、そんな音のないアトリエで、私が何を「聞いて」いるのか、お話ししたいと思います。
音楽とアート
美術史において、音楽とアートは深く結びついてきました。
カンディンスキーが音楽から抽象絵画の着想を得たように、多くの芸術家は音楽の持つ感情の高揚や即興性を、自身の創作に取り込んできました。
以前の私もそうでした。
制作中に音楽を流し、その高揚感に没入することで、我を忘れて描くことに喜びを感じていました。
しかし、ある時から、その「高揚感」に不安を覚えるようになったのです。
描くスイッチになるけれど、どんな精神状態でも安定して制作に向き合いたい。
アップダウンしやすい感情をニュートラルに保つために、何も聞かないことが、今の私には必要になりました。
これは、外部の刺激を意図的に排除し、作品の本質を際立たせようとした、20世紀のミニマリズムや、ジョン・ケージの「沈黙の音楽」にも通じるアプローチなのかもしれません。
私にとって、アトリエと日常を切り離すために、無音状態をつくることが大切になったのです。
文学とアート
音楽を排除したことで、かえって様々な「音」が私を取り巻くようになりました。
筆の穂先がキャンバスを擦る音。
外から聞こえる日常の音。
これらの音は、私にとって、「生きている」証です。
音がないからこそ、他の五感が研ぎ澄まされます。乾いたキャンバスの匂い、指先に伝わるマチエールのざらざらとした感触、そして色彩。
これらは、私の作品の言葉となり、皆さんに届くことを願っています。
現代アートが、感情の直接的な表現から、社会や個人の物語を語るメディアへと変化している今、言葉(文学)とアートの関係性が再び重要視されています。
無言と言葉
私は、アトリエの静寂の中で、作品が自ら語りだすのを待ち、そして、その声を聞き取ろうとしています。
このブログを読んでいる皆さんが、個展の会場で作品を観るとき、五感で何かを感じ、心の中で新たな「音」を聞いていただけたら、それほど嬉しいことはありません。
コメント