ロスト・ペインティング#4
- Megumi Karasawa
- 2 日前
- 読了時間: 4分
白く揺らぐ
正午ぴったりに地下にある野外スペースから濃い霧が発生した
微風に吹かれて霧はうねりながら天を舞う
霧は次第に強く攻撃性を増しここに集う人々に少なからず恐怖を与えた
視界を奪う
見ようとすればするほど見えないことを知ってしまう
きゃっきゃきゃっきゃと声がする
子どもははしゃぐ
はしゃぎながら霧の中を勇敢に進む
彼らはいつでも好奇心と冒険心と共に生きている
スマホを片手に写真や動画を撮るのは現代人の条件反射的な行為
体験してることをとりあえず記録する
霧の中で撮った写真は白い靄と灰色の人影だけだった
想像したより面白味のない写真
幻想的な写真にするには演出が必要だ
図録に収録された写真は体験者の感覚を顕してはいなかったから
写真に映らないもの
白い靄に包まれて呼吸が苦しくなったこと
災害や戦を想像し恐怖を感じたこと
身体が硬直したこと
動きを拘束されたこと
自分の存在が揺らいだこと
ある時間を過ぎると霧は噴出をやめた
何ごともなかったように元に戻る
元に戻ったように見えても今の体験は身体に刻まれた
一瞬自分の存在が揺らいだ
わたしの存在が不安定になった
立ち尽くしてしまったことに、怯えた
作品のメインカラーは白とする
白は記憶を喪失する様子
思い出せない
言葉が出ない
存在の揺らぎ
恐怖
喪失した時間の象徴
いつからか時が止まったかのように成長と成熟のピークは頭打ちになった
以後、同じような道を行ったり来たりしている
歳を取る感覚も歳を取ったと実感するようなこともなく、歳を考える暇なく家事に追われた
去年から髪に白いものを見つけるようになった
以前より増える白髪を見るたびに衰えや老いを意識する
一本、二本、三本、四本…
顔のシミや顔色が黒ずむ
目を背けたくなる外見の変化
外見の変化は心理に小さく深く影響する
黒い色が成長と成熟につながる若々しい生命エネルギーの象徴だとしたら、白い色は老いや衰退につながる縮小の象徴になるだろう
わたしが好んで黒い色で制作していたとき精神的なタフさに憧れ肉体的な健康は精神力で維持できるものだとおもっていた
弱さや脆弱さ繊細さを克服するように力任せに黒を用いたことを隠しはしない
記憶は呼び覚ませるものだと力任せに黒い色で扉をこじ開けた
力のあるもの
勇敢なもの
鼓舞するもの
情熱的なもの
掻き立てるものを作品にぶつける
情熱の炎で火傷するような、迫りくる圧倒的な力を持つ色を味方に自分自身に念じた
つよくなる
一種の暴力として黒を使ったのだ
チューブから白くどろりとした絵具を直接キャンバスに絞る
白い色もまた暴力なのだ
他の色を呑み込み素地に戻す
描いたものを塗り潰すやわらかな排除
取り戻せない喪失という名の暴力
白に染まり白しか見えない
靄に包まれる
成熟をピークに衰え喪失する時間
一抹の情さえ奪い去る恐怖
ただただ、怯えた

「ロスト・ペインティング#4」を読んでくれてありがとうございます
上記の画像は小さいキャンバスに描いた最初のものになる
SNSでハッシュタグを付けるとすればWork In Progress(WIP)「制作途中、進行中」となるものだ
小さなキャンバスを二十四枚描いた、これを一同に展示する予定だ
作品のステートメントは今回が四回目となった
これを基に短いバージョンと長いバージョンを考えたいところ
文章の辻褄があっているか、スムーズに入ってくるか、わかりやすいかなどは検討の余地がある
自分がこれをやると決めたら精一杯やる
精一杯やることを蔑ろにしない
そう言い聞かせて、文章に喰らいつく
一日中冷たい雨が降り冬に戻ってしまった
季節の気まぐれに翻弄されながらひとつひとつ確かなものを積み重ねる
確かなものがないスクラップビルドの国、日本
自然災害、特に地震による足元の基盤の薄い国である
確かなものをもちたいとおもうのはこの国に生まれたからだろうか、わからない
今日もおつかれさまでした
明日は晴れて桜の花を愛でられますように
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