作業進捗4:差異と差延のちがい
- Megumi Karasawa
- 8月21日
- 読了時間: 3分

個展に向けての制作は続いていますが、今日は、私が今、気になり探求しているテーマについてお話ししたいと思います。
「完成」
私は今、作品の「完成」とは何か、という問いと向き合っています。個展が近づくにつれて、作品を「完成」させなければ、という焦りを感じる一方で、どこかに「これで本当にいいのか?」という迷いも生まれます。
以前のブログで、私はグレイという色を通して、自分の「弱さ」や、制作における「既視感」について語りました。その中で、グレイがすべてをニュートラルに戻し、「一時停止」や「保留」の状態を示す色であることに気づきました。
「差異」と「差延(différance)」の違い
制作当初、わたしの個展の(暫定的な)テーマは「まなざしと差異」としていました。
「差異」は、皆さんが普段から使っている言葉だと思います。
それは、AとBの間に物理的な違いや、観る人それぞれの解釈の違いがあることを指します。
しかし制作を進めるにつれ差異。という言葉よりも「差延」という言葉のほうが、自分が描きたいことに近いのではないかと思うようになりました。
差延という言葉を最初に使った記事はこちらです→「作業進捗2:制作と差延」
「差延(différance)」は、少し複雑な概念です。
フランスの哲学者、ジャック・デリダが提唱したこの言葉は、「差異(différence)」と「延期(différer)」を組み合わせた造語です。
私の作品で言えば、加筆を重ね、色が濁り、線が震える。これは、当初の意図から「ずれていく」行為です。この「ずれ」や、意味が固定されずに「保留」される状態が、まさに「差延」なのです。
つまり、「差異」が作品間の物理的な違いや、鑑賞者の多様な解釈を指すのに対し、「差延」は、作品そのものが持つ、常に流動的で未確定な状態を意味しています。
私のグレイと「差延」
以前のブログで、私はグレイという色を通して、自身の「弱さ」と向き合いました。当初、グレイは保留し、一時停止を示唆するニュートラルな色だと考えていましたが、それは言い得ていなかったかもしれません。
私のグレイは、ニュートラルではありませんでした。それは、加筆前の静けさと、加筆後の葛藤や動きが混じり合い、未だ意味が確定しない、流動的な状態そのものを表現していたのです。
このグレイのパネル作品は、まさに「差延」と言った方がいい。
作品は、完成という静止した状態ではなく、今もなお変化し、新しい物語を語り続けているのです。
不確かなことを意図する
古典的な美術では「完成」が至上とされてきましたが、現代アートにおいては、制作のプロセスや、未完成な状態そのものが持つエネルギーや生々しさが価値を持ちます。
私は、完璧な作品を完成させるのではなく、この「差延」という不確かな状態に身を置きますが、それを完璧にするのです。
これは、鑑賞者の皆さんにも、作品との対話を通して、新たな気づきや発見をもたらすものとなるよう、仕事を進めています。
コメント