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筆と身体、そして知:具象表現の実践が導く、現代アートの深化

「筆と身体、そして知」。今回の展覧会で実践したポートレート制作が、私の具象表現、そして現代アート全体に新たな深みをもたらしてくれました。 作品を「描く」という行為が、いかに身体的で、いかに思考を要するプロセスなのか。その実践から見出した気づきをブログに綴っています。
根底にある確かな造形力が、抽象表現の真の深みを創り出す。

先日閉幕したグループ展『第9回 菜々燦会展』は、多岐にわたる学びをもたらしてくれました。その中でも特筆すべきは、会期中に実践したポートレート制作が、私の創作における具象表現の可能性と、アーティストとしての身体的知の深化に大きく寄与したことです。



「描く身体」と「被写体の本質」へのアプローチ:抽象を支える具象の力


会期中、私は6日間で6名のポートレートを描かせていただきました。モデルを前にしてペンを走らせる時間は、単なる再現に留まらない、極めて身体的かつ精神的な集中を要するプロセスでした。特に、幼年期のモデルを描く機会が多かったので、60代以上の男性を描くプロセスは初めてと言っていいくらいの経験でした。これは、私の描画スキルと洞察力に対する心地よい負荷となりました。


この経験は、私のポートレート、ひいては人物画における表現を明確に一段階押し上げたものと確信しています。

私はこれまで、歴史上の偉大な巨匠たちの素描やデッサンに深く学び、彼らがそれぞれのキャリア段階や年齢で到達した具象表現の成熟度を、自身の制作における客観的な指標として意識してきました。具象表現、特にデッサンは、抽象表現と比較して、その達成度や技術的習熟度を明確に可視化しやすい側面があると感じています。


ここが私のアート制作における根幹の哲学でもあります。私は、根底にある確かな造形力が、抽象表現の真の深みを創り出すと考えています。具象的な観察眼やデッサン力は、目の前の形や空間を正確に捉えるだけでなく、目に見えないもの(感情、記憶、概念、あるいは存在そのもの)の本質を捉え、それを視覚化するための、強力な土台となります。


複雑な形をシンプルに構成する力、光と影で空間を表現する力は、抽象的なテーマを扱う際にも、形の構成、画面のバランス、そして作品が放つエネルギーといった要素を、より意識的かつ有機的に構築するために不可欠なのです。



具象表現の「最終解」と、持続的な実践の意義


これまで、クラフトマーケットや個人からの依頼を通じて人物画(似顔絵)を単発的に手掛けてきましたが、今回の展覧会での即興的なポートレート制作は、それらの実践の「最終解」とも呼べる地点に到達したという自負を抱かせます。


単なる技術の完成ではなく、モデルの内面性やその場の空気感までをも、限られた線と墨の濃淡、そして余白で表現できるようになった、という達成感があります。一瞬の表情からその人物の深層を読み解き、画面に定着させるという行為は、私の描画における瞬発力と洞察力を飛躍的に向上させました。


この洞察力は、抽象作品において、見えない感情や思考の断片を、形や色、線へと変換するプロセスにも大きく影響を与え、作品に新たな深みと説得力をもたらすと確信しています。

この実感を伴う手応えは、展覧会閉幕後もポートレート制作を継続している理由となっています。この極度の集中と圧力、自己表現の「最終形」への手応えを持続させるために、定期的にポートレートを描く実践の場を設け、技術と感覚の維持・向上を図るという明確な目的が生まれました。

これは、今回の展覧会が私にもたらした、予期せぬ、しかし極めて価値ある「収穫」です。



10月の個展へ:制作論とテキストによる概念の構築


さて、次の主要なプロジェクトとして、私は10月6日からの個展に向けて準備を進めています。今回の展覧会で得た「機会の選択の重要性」や「鑑賞者とのインタラクションの深化」といった多角的な視点は、個展のキュレーションと作品制作に深く影響を与えています。


今後も、個展の作品群や、その根底にあるコンセプトをより明確にするため、このWixブログを通じて発信を続けていきます。テキストによって思考を言語化し、作品の視覚的な輪郭を補完する形で概念を構築していくことは、私のアート実践において不可欠なプロセスです。


なぜテキストが不可欠なのか? 


それは、言葉にすることで、曖昧だった視覚的なアイデアが明確な形を持ち、作品に多層的な意味を与えることができるからです。また、テキストは鑑賞者との間に新たな「対話の層」を生み出し、作品だけでは伝えきれない思考や背景への理解を促します。

そして、テキストと作品を両輪として動かすことにより、作者自身の作品の理解がさらに深まるということがあります。


この新たなフェーズを見出した後、具象表現の実践を通じて得られた知見を、抽象的なテーマへとどう昇華させていくか。そして、鑑賞者との対話をいかに深く、多層的に構築していくか。対話がもたらすものと、無言が必要な時間を折り重ねられるように制作に邁進してまいります。

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