『ロスト・ペインティング』探求録:六日目、閉幕。アートの新たな地平
- Megumi Karasawa
- 7月21日
- 読了時間: 5分

グループ展『第9回 菜々燦会展』は、7月20日(日)をもって無事に閉幕いたしました。会期前半は不安定な天候にやきもきしましたが、後半には夏日が戻りましたね。そんな中、遠方からも足を運んでくださった多くの皆様に、心より感謝申し上げます。観客の方の眼に触れることで、作品と私自身に刺激を受け、多くを学ぶことができました。
この六日間の展示期間は、私にとって、作品を「発表する」という枠を超え、アーティストとしての自己を深く見つめ直し、次への「設計図」を描くための貴重な時間となりました。
「いい負荷」がもたらした、かけがえのない「収穫」
会期中のブログでもお話ししてきましたが、今回の展覧会で私が得た最も大きなものは、まさに「いい負荷」という名の「収穫」でした。
それは、時に悔しさや反抗心といった負の感情を伴うものでしたが、心理学でいう「昇華(Sublimation)」のプロセスを経て、私の創作における不可欠な「栄養源」へと転じました。
美術史を紐解けば、多くの偉大な芸術家たちが、内面の葛藤を作品に込め、普遍的な表現へと昇華させてきた歴史があります。私もまた、この経験を通じて、自身の表現の深みが増したと実感しています。
特に、柏壁市民センターという公共施設の特性を踏まえた作品展開を考えたことは、私にとって多角的な視点をもたらしました。作品と空間の相性、鑑賞者の無意識の動線、そして特定の作品に寄せられる反応――これらは、アトリエでの制作だけでは決して見えなかった、生きた産物です。
小作品24点と中作品12点を一体化させ、色彩を統一して群として見せた試み。そして、去年の鑑賞者の期待を裏切るモノクロ作品からの「冒険」としての試行は、今後の私の作品制作において、構図、色彩、素材の選定、そして空間との関係性を再考するための具体的なヒントとなりました。
「作品を露出する」ことの真意と、新たな視点
作品を露出することは、単に描いたものを提示するだけではありません。それは、作品の背景にあるものや、作家の私的な経験や問い、そして社会が外界を見る眼を、より深く表現するための行為だと私は考えています。言葉にできないものを絵としてビジュアルに訴えるだけではなく、テキストによって内容を深めること、そして会場の選定そのものが作品世界に影響を与えるものだと、今回の経験を通して再認識しました。
会期中には、何人かの方々が作品のストーリーを辿るように、キャプションと共に鑑賞する姿を見ることができました。鑑賞者の中には絵画を制作している方や、アートを深く愛する方、社会性のあるテーマに関心のある方との対話が、私の思索をさらに深めてくれました。
一方で、コンセプチュアルなテーマがある場合に、絵画というオーソドックスなメディアで訴えることの必要性について、もっとよく考えなければという想いを抱きました。作品が持つメッセージが確かに伝わったことも実感しましたが、絵画でなくてもメッセージを伝える手段や作品がある可能性についても視野を広げ、今後新たな選択肢を探ることもしていきたいと考えています。
この直接的な対話から得られたインスピレーションは、今後の私の創作において、鑑賞者との関係性をより深く追求するための大切な指針となるはずです。
会場での「眼差し」の対話:ポートレート制作の記憶
今回の展覧会で初めて試みた、会場での墨によるポートレート制作は、私にとって特に印象深い体験となりました。ライブパフォーマンスとしてこの試みにご依頼くださった皆様、本当にありがとうございました。
実際にその場で筆を動かすと、絵を描き始めた頃、高校生だった自分の感覚が鮮やかに蘇ってきました。人の持つ雰囲気やスペース(余白)、静謐さ、そして滲み出る内面や、詩的な表情を、一秒ごとに切り取るように何枚か早描きしました。この「枚数を重ねることで目の前の人に迫り、掘り下げる」という過程は、私がこれまで培ってきた制作の根本と通じるものです。描いた3~4枚の中から、ご本人に気に入ったものを選んでいただく時間も、私にとっては特別な対話となりました。
次なる舞台「個展」へ、そして「劇場型アート」の可能性
今回のグループ展で得られたすべての学びと気づきは、私の次なる大きな目標である「個展」へと確実に繋がっています。
「いい負荷」を通して見えてきた「心地よい場や相性のいい空間を求める一方で、それができない場でどう作品を見せていくか」という視座の広がりは、私の現代アートが、空間を丸ごと作品化するような、より没入的な「劇場型」の方向に向かう可能性を強く示唆しています。
個展では、私が今感じているこれらの「気づき」や「問い」を、より深い形で具現化し、皆様にお届けしたいと願っています。今回の経験は、その個展の構想を練り、私の作品とその方向性について再考する余地をたくさん残してくれました。
この展覧会での経験を、未来の作品へと繋ぎ、これからも「予想を裏切るアーティスト」として、皆様に新たな表現をお届けできるよう精進してまいります。
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