『ロスト・ペインティング』探求録:五日目、会場で描くポートレート ― 眼差しの歴史と新たな対話
- Megumi Karasawa
- 7月20日
- 読了時間: 3分

グループ展『第9回 菜々燦会展』は、本日で五日目を迎えました。残すところ、いよいよ明日が最終日です。連日、会場に足を運んでくださる皆様に、心より感謝申し上げます。
これまでのブログで、私は自身の作品『ロスト・ペインティング』の深い探求と、会場での展示から得た「いい負荷」、そして今後の「個展」への展望について綴ってきました。その中で、実はもう一つ、私にとって大きな挑戦となる試みを会場で開始しました。それは、来場してくださった方々のポートレートを描くことです。
ポートレート、その「葛藤」の先へ
以前のブログでも触れてきましたが、私にとって「ポートレートを描く」という行為は、長らく逡巡の対象でした。鑑賞者と作品、そして作家という三者の関係性において、個人の顔という具体的な対象を描くことは、私の作品が追求する抽象性や普遍性とは異なるベクトルにあると感じていたからです。しかし、この展覧会の「いい負荷」と、日々生じる「気づき」が、私をこの新たな冒険へと駆り立てました。
会場でのポートレート制作は、まさに、絵画における「眼差しの歴史」を私なりに体験する試みでもあります。似顔絵や肖像画は、古くは個人の記録、権力者の威厳、あるいは内面の表現として、時代と共にその役割を変えてきました。例えば、エジプトのミイラ肖像画からルネサンス期の精密な肖像画、印象派の光の表現、そして現代アートにおけるアイデンティティの探求まで、人間の顔は常に、描く者と見られる者の間に複雑な対話を生み出してきました。
アーティストの視点、そして一期一会の「対話」
会場で向かい合うのは、見知らぬ方々の顔です。彼らの視線を受け止め、その一瞬の表情や内面を捉えようとする時、そこには美術史で語られてきたような「モデルと画家」の関係性が生まれます。私の筆致は、ただ似せることだけを目的とせず、その方の「今、この場所にある存在感」を、私のフィルターを通して表現しようと試みます。それは、まるで『ロスト・ペインティング』で「存在の再構築」を試みたように、目の前の人物の「本質」を、限られた時間の中で再構築する作業にも似ています。
一枚のポートレートが完成するまでに、多くの言葉が交わされます。「普段絵は描かないんです」「こんな風に描かれるのは初めて」「ちょっと恥ずかしいけれど、嬉しい」――。これらの声は、私のアートが、単なる展示物としてではなく、人と人との間に新たな対話や体験を生み出す「媒介」となり得ることを教えてくれました。それは、私の作品が目指す「劇場型のアート」への、小さな、しかし確かな一歩なのかもしれません。
残り一日、そしてその先へ
残りの会期は明日、いよいよ最終日です。この展覧会で得られた、作品制作の新たな可能性、そして鑑賞者との直接的な対話から生まれるインスピレーションは、私の次の大きな目標である「個展」へと確実に繋がっています。
明日も、会場で皆様とお会いできることを心より楽しみにしております。ぜひ、私の作品、そして「眼差しの歴史」に触れるポートレートの試みを通じて、新たな対話が生まれる瞬間に立ち会っていただければ幸いです。
会期と在廊のご案内
グループ展『第9回 菜々燦会展』は、7月15日(火)から20日(日)まで、柏壁市民センター2Fギャラリーにて開催されます。
私の在廊予定は以下です。
7月20日(日)10:00〜16:30(最終日)
ご来場が叶わない方は、私のSNSで会場画像を投稿していますので、そちらをご覧いただけると幸いです。
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