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執筆者の写真Megumi Karasawa

美術館に出掛ける

東京オペラシティ「松谷武判展」


某日、初台駅が最寄りの東京オペラシティアートギャラリーに行く

12月17日まで開催の「松谷武判展」を観に行ってきた

この作家を知ったのは今から二年前になるだろうか…Instagramでたまたま作品を観て衝撃を受けYouTubeで制作風景動画をみながらパリにこんな日本人がいるんだ!と驚いたのでした、それから二年経ち今年9月頃に日本で大きな展覧会があると知ってどうしても行かないとと日付けをチェックしていました、生で作品を観ることができるなんて信じられないです、今年はいい展覧会に巡りあえて本当にうれしい

松谷氏は1937年生まれで今年87歳、60年を超える活動歴があります

1966年に29歳で渡仏しそれからずっとパリを拠点に制作を続けています、パリ渡った当時はその時最先端のジャンルだったという版画の領域で新たな取り組みを開始しました、1970年にモンパルナスにシルクスクリーン版画工房を設立し、のちにバスティーユに移ったといいます

展覧会場では銅版画作品の面白さも際立っていました

銅板作品はビュランとメゾチントで作っていました、シルクスクリーンは職人的でグラフィックな作風でした(今回画集で版画工房を設立していたのは初めて知りました)

やはり作品の幅と奥行きを深めるには版画の世界も手掛けることがいいと改めて実感する…


画像を通して見た作品は黒と白の禁欲的で精神性の高い崇高な印象を持ちました

しかし日本で活動していた具体美術協会時のビニール系接着剤(ボンド)を使った有機的なフォルムをレリーフ上に生み出す作品を生で観たらエロスを感じさせる肉感的で生々しい感じが豊満な肉体や内臓を感じさせました、ビニール系接着剤(ボンド)が生命を連想させる物質に見えるなんてことは日常生活では決してありません

人間的で生命誕生の瞬間のような孕みや破れの作品から黒鉛による禁欲的で東洋的な世界観の思索的で哲学的な作風へ移行する過程は氏が拠点を西洋に移したことも要因のひとつだろう

日本にいると日本人であることを意識することに主軸を置かないが、国を出ると日本や日本人のアイデンティティを強烈に意識することになったのだろうか、とすると黒と白で作品をつくることに活動が収斂したと推測する

ビニール系接着剤(ボンド)の素材の色を黒鉛で塗り込め、あたかも黒鉛がどろりと滴る様子をみると生命を持った物質の息吹が聞こえてくるようで、物質の内臓が溶けだしたように見えたのだった

一瞬留まっているけれど、次の瞬間には動き出すような気配を感じ不気味さも感じた

不気味さと美しさが混在する得体の知れない淵のような世界は「黒」色に依拠するのだった

信じられないくらいシンプルな制作工程と反復によって作品は作られていて、その工程は風通しがよくあっけらかんとしたものに映りました、それだけに完成した作品の物質感や存在、もう一人の他人であるかのようなリアルな息吹を持つ「もの」としての作品はこちらを見返すような眼差しをもっていた

氏が世界的なアーティストとして第一線で活躍し、最新作がキャリアでいちばんかっこいいと思わせる抜群の感覚は一体どこから来ているのだろうか

現代アートはわからなさがつきまとうが、氏の作品には「わからなさ」というものはなかった

作品を通してマテリアルの存在の生々しさ、眼差し、隣人のような遠くて近い距離に妙な気配を感じた展覧会でした

初期から最新作を含む作品と資料、映像など約200点が展示されています

おススメの展覧会です、是非ご覧になってみてはいかがでしょうか


2024年10月2日(木)ー12月17日(火)

東京オペラシティアートギャラリー

開館時間11:00-19:00

入場料:一般1600円


東京オペラシティ「松谷武判展」を観に行く
東京オペラシティ「松谷武判展」を観に行く

卵の殻


美術館からの帰り道、自宅へ向かう途中に卵の殻が落ちていた

卵の殻を見て松谷氏の作品「白い円」が思い浮かんだ

卵のようなものをつくり、殻をやぶり、その内部には何もない。という氏の作品と、たまたま道路に落ちていた卵の殻という二つの現象が宇宙的な深遠を伴いリンクした

こういうことが地球の片隅でひっそりと行われている


道端に落ちた卵の殻から松谷武判氏の作品を連想した
道端に落ちた卵の殻から松谷武判氏の作品を連想する


「美術館に出掛ける」を読んでくれてありがとうございます


新宿初台まで自宅から往復3時間かかる、観に行くには半日かかる

それでも数十年前より交通の便が良くなり地下鉄の乗り入れが増えたので乗り換え1回で済み負担が減りこれなら気になる展覧会は観に行けそう

オペラシティは若手作家の育成・支援を目的としたプロジェクトを行っていて現代アートのペインティングも観てきました

オペラシティアートギャラリーは国内外の最先端で活躍するアーティストの展覧会を企画することが特色です、選出されるアーティストは今をきらめく方ばかりです、二年前には「ミケル・バルセロ」展も開催されました(観に行けばよかった)

今回日本にいて松谷氏の作品を都内で観ることができてラッキーでした

松谷氏は今も現役で作品をつくり続けています、その姿は作品制作が人生の根拠のように見えます

展覧会で観たものの鮮烈さを味わいながら画集を眺め、読み、余韻に浸ろうとおもいます

ちなみに今回の展覧会の図録は作成が遅れていて発売されていませんでした

わたしが購入したものは2015年西宮大谷記念美術館で開催された図録です

この図録をみると今回の展覧会がいかに膨大な作品と資料で成り立っているかがわかります、謳い文句にあるように「空前絶後、国内外で行われてきたあらゆる過去展をしのぐ松谷の決定版展覧会」となっていました、ドローイングもモノタイプもみれて面白かったです

素晴らしい作品を観れました

今日もおつかれさまでした、明日も素晴らしい日になりますように



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