『 ロスト・ペインティング』探求録:第四章:「白い恐怖」と「わたし」の問い直し
- Megumi Karasawa
- 7月13日
- 読了時間: 3分

皆さん、こんにちは。現代アーティストのMegumi Karasawaです。
長きにわたる連載も、いよいよ最終章となりました。これまで、『ロスト・ペインティング』に込めた「白」への問いから始まり、「消去」という制作プロセスが持つ多層的な意味、そしてそこから「存在が再構築」される過程についてお話ししてきました。
最終回となる今回は、私の作品の根底に流れる、ある「白い恐怖」について、そしてその恐怖がどのように「わたし」という存在を問い直し、皆さんの内面へと響く普遍的な問いへと昇華されていくのかを、深く掘り下げていきたいと思います。
「白い恐怖」の正体:喪失と不可避な変化
制作中、画面がだんだんと白く、靄に包まれていく中で、私はある種の衝撃を受けました。それは、まるで成熟のピークを迎え、そこから不可避な衰えや喪失へと向かう時間を目の当たりにする感覚でした。白という色は、描いたものを容赦なく覆い隠し、時に一抹の情さえも奪い去る。この純粋でありながら、すべてを呑み込む力が、私にとって「白い恐怖」として迫ってきました。
私がそこに感じたのは、何かが無に帰していくことへの畏怖、そして時間の流れや変化に抗えない人間の宿命に対する根源的な恐れでした。それは、誰もが人生の中で経験する「失うこと」「変わること」への、普遍的な感情と繋がっています。
私はただただ、その圧倒的な力に怯えていました。

「フー・アム・アイ」:「わたし」の喪失と真実
この「白い恐怖」は、私の中に「フー・アム・アイ(Who am I?) — 私は誰なのか」という、深く、そして逃れられない問いを突きつけました。
作品を通して、私はまさに「わたし」を喪失していくこの白い色と向き合うことになったのです。
しかし、この「わたし」の喪失は、存在の消滅を意味するものではありません。むしろ、固定された自己の概念が揺らぎ、曖昧になることで、より本質的な人間の生が炙り出されていきます。それは、特定の役割や社会的アイデンティティを超えた、純粋な存在としての「わたし」の探求です。
個人の記号が消え去り、白という余白の中で立ち現れるのは、他者との境界線が曖昧になり、誰もが抱える普遍的な感情や経験が露わになる空間です。このプロセスこそが、私にとっての「存在の再構築」であり、新たな真実を垣間見る瞬間となります。
鑑賞者への問いかけ:あなたの「白い恐怖」は?
私の作品は、この「白い恐怖」と「わたし」という問いを通して、鑑賞者である皆さんの内面にも深く響くことを願っています。
人生において、あなたが感じた「白い恐怖」とは何でしたか? それは、失った記憶、変化への不安、あるいは漠然とした未来への恐れかもしれません。 そして、その恐怖と向き合った時、あなたの「わたし」という存在はどのように揺らぎ、何を見出しましたか?
私の『ロスト・ペインティング』シリーズは、答えを提示するものではありません。鑑賞者の皆さんが、作品の中に描かれた匿名性や曖昧さに自身の経験を重ね合わせ、自らの「恐怖」と「わたし」を問い直し、そしてその先に、あなた自身の「存在の真実」を見つけるきっかけとなることを心から願っています。
展覧会、7月15日から!
連載は今回で最終回ですが、私の作品はこれからが本番です。
予報では天気が崩れるようです、お足元にお気を付けてご来場くださいますよう宜しくお願い致します。
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